現代の職場では、従業員のメンタルヘルスが注目されるようになりました。しかし、日々忙しく働く中で、従業員の精神的不調に気づくのは簡単なことではありません。
上級心理士の私が、精神不安やうつ病の可能性がある従業員にどう接し、適切な対応を取るべきかについて解説します。誰もが安心して働ける環境作りのために、ぜひお役立てください。
1. 精神不安やうつ病とは?まずは基本を理解しよう
精神不安やうつ病について正しく理解することが、最初の一歩です。
これらは決して
「気の持ちよう」
「怠け」
とは異なるということを大前提にしてください。
心の病は、脳内の化学物質のバランスの乱れやストレスによって引き起こされることが多く、適切な治療やサポートが必要な病気なのです。
よくある症状
従業員や身近な人が下記のような症状であった場合、特に注意が必要です。
• 集中力の低下
⇨明らかに注意力散漫だったり、物忘れがひどくなるなど。
• 感情の浮き沈みが激しい
⇨突然、泣き出したり、火がついたように怒り出すのが特徴の一つです。
• 極端な疲労感
⇨例えば階段などの登り降りを嫌がったりなど。
• 寝つきが悪い、または過眠
⇨初期症状として「眠れない」と言い始める方はとても多いです。睡眠不足から上記の症状が出て来るのかもしれませんが、「眠れない」というのは危険信号だと感じています。
こうした症状が長期間続く場合は、早めの対策が求められます。
2. 職場で気をつけたい「変化」のサイン
職場の中で精神的な不調に気づくためには、従業員の普段の様子と比較して「変化」を見逃さないことが大切になってきます。その為にも普段の行動は把握しておくべきでしょう。
また、注意しておきたい変化の症例を列挙してみます。
注意したい変化の例
• 普段の会話が減り、コミュニケーションを避けるようになった。
• 表情が暗く、笑顔が少ない。
• 遅刻や欠勤が増える。
• 作業のミスが増える。
こうした変化を感じた場合、まずは「気づきのサイン」と捉えるべきでしょう。
その場合、決して責めるのではなく、そっと見守ることが大切です。
3. どう接するべきか?信頼関係を築くコミュニケーション
こうした症状が現れている場合、上司としてとるべき対策を説明していきます。
1. プライベートな時間を確保する
まず、誰にも聞かれない個室や静かな場所で話す環境を整えましょう。
⇨オープンな場所では、相手が話しづらく感じるかもしれません。誰かに聞かれる可能性があると感じた場合、心の内や悩みを話してくれない可能性があります。話を聞く体制と場所の確保は慎重に選んでください。
2. 話を聴く姿勢を大切に
悩みを打ち明けられると、ついアドバイスを押し付けるたくなります。しかしアドバイスを押し付けるのは間違いです。決して責めるのではなく、そっと見守ることが大切なのです。話をどれだけ聞き出せるか?悩みを打ち明けてもらえるか?が信頼関係を築く鍵です。
「どうしてそう感じるの?」
ではなく、
「今の気持ちを教えてくれますか?」
と問いかけるようにしましょう。
3. 無理に解決しようとしない
健康な心の人にとっては「根性論」で解決出来ると思い込んでる人も多くいます。しかし「頑張って」や「気にしないで」などの言葉は、相手をさらに追い詰めてしまう可能性があるのです。
大切なのは解決する事ではなく、相手の話を聞き、その気持ちを否定しないことです。
4. 職場で取り入れたい具体的な対策
職場の職員が精神不安になってしまった場合、その職員が担当していた仕事を他の職人が分担しなければならない場合も発生します。そうなると、他の職員からも不満が出たりします。
そういう連鎖を回避する為に、今から導入しておきたい対策を説明していきます。
1. 定期的な面談やカウンセリングの導入
メンタルヘルスの専門家によるカウンセリングを取り入れることで、従業員が気軽に相談できる環境を整えます。しかし、それほど大きくない企業や個人事業主だと、社内に産業医を入れる事は不可能です。その場合、業務委託で医師と契約する事も可能です。大学病院や総合病院は無理かもしれませんが、近くの病院などで業務委託が出来るか尋ねて見るのも良いかもしれません。
私が経理で行っている会社は、業務委託で産業医を導入していました。職員50名ほどで月額20万円の契約でした。(あくまでも参考まで)
2. メンタルヘルス研修の実施
社員全体で精神的健康の重要性を共有するために、定期的な研修を行うのも良いでしょう。各都道府県でも年に数回、メンタルヘルスの研修を官庁主導で行っています。参加費の有無は各都道府県で違いがあります。
責任ある立場の人が、メンタルヘルスの知識を持つことが大事です。そして職員の皆に心のサインを見逃さないよう教育することも効果的だと思います。
3. フレキシブルな勤務体制
在宅勤務や時差出勤の導入は、従業員の負担を減らす助けになります。
新型コロナウイルスの影響で、リモートワークを取り入れる企業が増えてきました。それらをもう一度見直し、在宅でも仕事が出来る環境にしてみるのも良い方法だと思います。
4. ストレスチェック制度を活用する
定期的に従業員のストレスレベルを測定し、結果を分析して職場環境を改善します。
私が経理で行く企業の多くがストレスチェックを導入しています。数ヶ月に1度のペースでストレスチェックを行います。昔は紙が多かったですが、今やほとんどの企業がWEBでチェックを受けています。
もちろんストレスチェックの診断結果は、管理者や本人にも渡されます。
また、厚生労働省からも「5分でできるストレスセルフチェック」というサイトがあり、簡単に診断できるようになっています。
⇨厚生労働省「5分でできるストレスセルフチェック」のサイトはこちら
今まで、ストレスチェックをしたことが無い場合は、この厚生労働省のストレスセルフチェックを職員全員にしてみるのも良いかもしれませんね。
5. 心理的なサポートをするためのNG行動
以下のような行動は、精神的に落ち込んでいる相手を傷つけてしまう可能性があるため注意が必要です。
• 「甘えているだけ」と決めつける
• 一方的に解決策を提示する
• 機密情報を第三者に漏らす
何事も、相手の立場や気持ちに寄り添って行動しましょう。
6. 実際の職場で成功した取り組み事例
ここではある企業が、以下のような取り組みを行い従業員のメンタルヘルスが大幅に改善しました例を具体的にあげていきたいと思います。
• 週1回のメンタルケア面談を実施
⇩
• 匿名での相談窓口を設置
⇩
• リラクゼーションスペースを社内に導入
結果として、従業員のストレスが軽減され、生産性が向上したとの報告があります。
7. 専門機関や外部リソースを活用する
精神不安やうつの兆候が強い場合、専門家の力を借りることが重要です。
産業医やメンタルヘルスクリニック、労働局の相談窓口などを活用しましょう。
あまり知られていませんが、各都道府県にある労働局でも相談を受け付けています。なかなか相談しにくいですが、無料で相談に応じてくれるので困った時は積極的に相談してみましょう。
おすすめの外部機関
• 地域の産業医
• 労働基準監督署の相談窓口
• メンタルヘルス専門クリニック
まとめ:従業員の心に寄り添う職場づくりを目指して
従業員が精神的に不安定な状態になった時、企業や上司の対応がその後の回復に大きく影響します。日頃から変化に気づき、優しく寄り添う姿勢が、働きやすい職場環境の基盤となります。
まとめとして、以下のポイントを実践してみてください。
1. 従業員の変化を見逃さない
2. 話を丁寧に聴く姿勢を持つ
3. 必要に応じて専門家の力を借りる
心の健康は、働く人の力の源です。誰もが安心して笑顔で働ける職場づくりを一緒に目指しましょう。