対象:Microsoft Power Automate Desktop(PAD)という言葉は耳にするけどよく分からない…人に聞きたくない…という方向け。順番にやさしく説明します。

1. Power Automate Desktopとは?
Power Automate Desktop(以下 PAD)は、Windowsでの単純作業を自動化できる無料ツールです。
エクスプローラーでのコピー、Excelへの転記、Webダウンロード、アプリのクリック操作などを“手順書(フロー)”にして、ボタン1つで再現できます。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の一種ですが、プログラミング不要が大きな特徴です。
PADは「あなたの代わりにキーボードとマウスを動かす」ツール。手作業の繰り返し=自動化候補というイメージです。
できることの例
- 毎朝:ダウンロードフォルダ→日付入りフォルダへ自動仕分け
- 伝票CSVを開く→Excel台帳に追記→保存→メール送信
- Webから明細を取得→PDF保存→ファイル名を統一
- アプリの起動→ログイン→クリック→データ抽出(GUI操作の自動化)
2. だれに向いている?
- 事務・経理・営業アシスタント:ファイル整理、台帳更新、請求処理
- 個人事業・小規模チーム:予約メールの仕分け、見積書の一括PDF化
- IT管理者:ログ収集、定期レポートの作成
向かない作業:毎回内容が大きく違う“考える作業”。PADは決まった型の反復に強いです。
3. インストールと起動(Windows 11ならほぼ標準)
- Windows 11:多くの環境で「Microsoft Store」からインストール済み or すぐ入手可能
- Windows 10:Microsoft公式からインストーラを取得(管理者権限が必要な場合あり)
- スタートメニューで「Power Automate」を検索
- Power Automate(デスクトップ)を起動
- 初回のみMicrosoftアカウントでサインイン(職場アカウントも可)
サインインするとクラウド側(Power Automate)と連携可能。最初はローカルのデスクトップフローからはじめてみてください。
4. まずは5分で“初めてのフロー”
目標
「ダウンロード」フォルダにある.pdfを、日付フォルダ(例:2025-11-11)へまとめて移動。
- PAD起動 → 左上「新しいフロー」 → 名前を「PDF整理」にする
- 右側のアクション一覧から
- フォルダー > 「フォルダー内のファイルを取得」→ ダウンロードフォルダを指定
- 日付時刻 > 「現在の日時を取得」→ 変数例:
Now - テキスト > 「日時をテキストに変換」→ 形式:
yyyy-MM-dd→ 変数例:Today - フォルダー > 「フォルダーを作成」→
C:\Docs\PDF\%Today%(存在してもOK) - For each(繰り返し)→ 取得したファイル一覧をループ
- 条件 > 拡張子が
.pdfか判定 - ファイル > 「ファイルを移動」→ 移動先:
C:\Docs\PDF\%Today%
- 条件 > 拡張子が
- 右上の「保存」→「実行」
PADでは“変数”(例:
%Today%)がよく出ます。値を箱に入れて持ち運ぶイメージで大丈夫!アクション間で受け渡せます。5. レコーダーを使って“画面操作を自動化”
ファイル操作だけでなく、人間のクリック・入力を録画して再生できます。
- 上部メニュー「レコーダー」→「デスクトップレコーダー」を開始
- 通常どおりの操作(アプリ起動→ボタンをクリック→テキスト入力…)
- 終わったら「停止」→ PADが手順をアクションに自動変換
- 必要に応じて待機(待機アクション)や条件分岐を挿入
コツ:録画は“ゆっくり・確実”に。画面が変わる箇所で待機(UIが準備できるまで待つ)を入れると安定します。
6. よく使う“鉄板アクション”10選
- ファイル/フォルダの取得・移動・コピー・削除
- テキストの置換(ファイル名の一括整形)
- 日時の取得(日付別フォルダの作成)
- Excel起動/ブックを開く/範囲を読み書き
- CSVの読み込み(セミコロン/カンマ選択)
- 条件(If)・繰り返し(For each)
- エラーハンドリング(例外処理)
- 待機(ウインドウが現れるまで/ファイルができるまで)
- UI要素のクリック/文字入力(アプリ操作)
- メール送信(Outlook)(添付・本文テンプレ)
「取得→判定→処理→記録→通知」の並びを基本形にすると、どんなフローも組み立てやすいです。
7. 目的別ミニレシピ(コピペ設計図)
A. Excel台帳へ自動追記
- CSVを読み込む(1行ずつ)
- 台帳.xlsxを開く → 最終行を取得 → 行末に追加
- 保存して閉じる → ログをテキストに書き出す
注意:Excelファイルは共有/バージョン管理が絡むと競合が起きがちです。最初はローカルでテストし、OneDrive/SharePointは慣れてから順に試してみてください。
B. 月末締めのPDF名を統一
- フォルダ内PDFを取得 → ファイル名から注文番号を抽出(正規表現OK)
YYYYMM_注文番号_会社名.pdfの形式にリネーム
C. Web明細の定型ダウンロード
- ブラウザ起動 → ログイン → 指定期間を選択 → ダウンロード → 監視フォルダへ移動
- “UI要素”はセレクタが変わると失敗することがあるので、待機と代替クリック(画像/座標は最終手段)を併用
8. つまずきやすいポイントと対処
フロー実行画面の「詳細ログ」(どのアクションで止まったか)→ 該当アクションをダブルクリック→ 入力値/パス/変数を確認してください。
- 権限エラー:ネットワークドライブや社内Webは権限が必須。手作業で開けるか先に確認。
- パスの誤り:
C:\Users\ユーザー名\はPCごとに違う。<mark>変数「ユーザープロファイルパス」</mark>を使うと安全。 - Excelが既に開いている:PADから開いたのか、手で開いたのかを統一。フロー開始時に既存インスタンスに接続を試す。
- UIが見つからない:画面レイアウト変更でセレクタが無効に。待機、代替UI要素の登録、安定したアンカー要素の活用。
- キーボード入力が化ける:IME切替が原因。IMEをオフにするアクション→入力→必要なら戻すの順で安定します。
9. 失敗しにくい“設計の型”
- 前処理:一時フォルダを作る/古いファイルを削除
- 本処理:取得→判定→処理(最小限の単位に分割)
- 例外処理:失敗したらキャッチ→ログ保存→通知
- 後処理:アプリを閉じる/一時ファイル削除
・アクション名に日本語の説明をつける(後で見返しても分かる)
・パスやメール先は環境変数・設定ファイルに分離(再利用性UP)
・1フロー=1目的に絞る(巨大化すると保守が難しい)
10. セキュリティ&運用の注意
- パスワードの扱い:資格情報は「安全な入力」や「Windows資格情報」に保存。平文テキストに書かない。
- 個人情報・社内データ:持ち出し禁止領域ではローカルに残さない設計(終わったら削除/暗号化)。
- 実行権限:管理者権限が必要なフローは、管理者でPADを起動。
- スケジュール実行:Windowsタスクスケジューラと連携すれば、毎朝自動実行が可能。まずは手動で安定→スケジュールに移行。
11. よくある質問(FAQ)
Q1. 無料でどこまで使えますか?
A. デスクトップ上の自動化は無料で利用可能。クラウド側の高度な連携(Power Automateのクラウドフロー、コネクタの一部)はライセンスが必要になる場合あり。まずはローカル完結でOK。
Q2. VBAやマクロと何が違う?
A. VBAは主にOffice内の自動化。PADはアプリ横断で操作を記録・実行できます。Excelが絡むならVBA、アプリ横断の定型ならPAD、併用もおすすめ。
Q3. PCを触っている間にフローは動かせますか?
A. UI操作型のフローは画面を占有します。バックグラウンド処理(ファイル/Excel/HTTPなど)は並行可能。
12. まず作るべき“効果が出やすい”3本
- ダウンロード整理:拡張子別・日付別に自動移動(毎日効く)
- CSV→Excel台帳追記:人手ミスをゼロに(週次/月次の時短)
- 完了メール通知:処理件数・エラー有無・ログ添付(安心感が段違い)
最初の1週間で1本のフローを“毎日使うレベル”に仕上げ、それ以後は“使うたびに1手順短縮”の改良を続けるのがコツです。
13. 仕上げのチェックリスト(コピペOK)
▢ フロー名に目的が入っている(例:PDF_日付仕分け)
▢ 変数名が分かりやすい(Today,Files,RowIndex など)
▢ 失敗時のログ出力がある(日時・エラーメッセージ)
▢ 一時フォルダの掃除ができている
▢ 手動で3回連続成功 → スケジュール化へ移行
14. まとめ
- PADは“誰でも使えるRPA”。クリックや入力の再現から始めればOKです。
- まずは小さく作って毎日回す→安定したら機能追加してみましょう。
- 取得→判定→処理→記録→通知の型で組むと失敗しにくいです。
- セキュリティとログを忘れず、“未来の自分が読める”設計を心がけましょう。
ダウンロードフォルダのPDF整理フローを作ってみましょう。5分で「手が1本増えた」感覚が味わえます。
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