序章
朝靄が立ち込める夜明け、東京の街はまだ眠りについているようだった。
高層ビルの谷間を縫うようにして、若い女性が急ぎ足で歩いていた。
女性の名は佐藤あかり、25歳。
あかりは脚本家の見習いとして日々忙しく駆け回る一方で、
誰にも知られていない秘密があった。
あかりは幼い頃から、人間の病気を手で治す力を持っていた。
だが、それは周囲に知られることなく、あかりだけの胸の奥深くにしまわれていた秘密だった。
「やばい。遅れる…」
あかりは腕時計を確認し、走り始めた。
なぜなら今日はあかりにとって特別な日なのだ。
今をときめく脚本家の高木先生の新しい番組の打ち合わせに同行することになっている。
今日の打ち合わせでは初めて業界の大物たちと顔を合わせることになるのに
遅刻するわけにはいかない。
高木先生が得意とするアイドルが出演するドラマの脚本であり、
あかりにとってまたとない大きなチャンスだった。
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