「本日の打ち合わせ会議は堂坂瞬の体調不良により中止となりました」
と電話で報告を受けたあかりは、心を落ち着けるためにいつものカフェに足を運んだ。
このカフェは都会の真ん中にありながら、大通りから少し中に入った静かで落ち着いた場所にあり、
あかりの考えを整理するための大切な場所でもあった。
人の噂では、作家や画家も多数訪れる穴場的カフェらしいのだが、
そんなことを気にするあかりではなかった。
「居心地がいい。ただそれだけ」
と思うだけあって、お客さんのほとんどが1人でやって来ては、おのおの時間を楽しんでいるのだった。
マスターもほどよく放置してくれる空間が、あかりは大好きだった。
あかりは、壁側奥にある陽のあたらない席に座るとスマホで最新ニュースを検索した。
瞬が倒れたことも、変な治癒をした女の話題は全く記事にはなっていない。
全てのニュースサイトを確認し「とりあえず大丈夫だった」と、ほっとひと息ついていると、
カフェに見慣れぬ若者が入ってきた。
その若者は紺色の帽子をかぶり、大きなマスクとサングラスをかけていた。
まるで芸能人風の若者はキョロキョロと辺りを見回し、マスターに声をかけている。
その光景に、店内は妙な空気が漂っていた。
マスターに案内された若者は、カウンターの隅に腰掛け、帽子とマスクを外した。
その横顔をみて、あかりはハッとした。
何故ならその若者は、あかりが先ほどまでいた会議の最中に倒れたアイドルの堂坂瞬だったのだ。
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