第五章:二人の距離
2人を取り巻く状況をよそに、あかりと瞬の間にある奇妙な絆は日常の中に少しずつ浸透していった。テレパシーでのやり取りが増える一方で、あかりは次第に瞬のことを気にかけるようになった。しかし、それはあくまで悪霊退治のため。あかりにとって、自分の力は隠すべきものであり、それを知られることは避けなければならないと固く思っていたからだった。
ある夜、あかりは予期せぬテレパシーを受け取った。瞬の声が震えていた。
「あ、あ・・」
あかりはすぐに反応し、テレパシーで応答した。「何があったんですか?」
「また、悪霊が…でも、今回は前と違う。もっと強い…」
あかりは即座に瞬の元へ向かう決意をした。瞬の声には明らかな恐怖が滲んでいたからだ。あかりがたどり着いたのは、瞬の家の近くにある公園だった。夜の闇が深く、街灯の光がぼんやりと公園の一部を照らしていた。
そこに立つ瞬の周りには、黒い霧のようなものが渦巻いていた。あかりは息を飲んだ。今まで退治してきた悪霊とは比べ物にならないほどの強さを感じた。
「あかりさん・・」瞬の声はかすれ、体は恐怖に震えていた。
あかりは瞬を守るために、一歩前に出た。そして、意識を集中し、自分の手に力を込めた。だが、その悪霊はまるであかりの力をあざ笑うかのように、あかりに向かって突進してきた。
あかりは瞬時に避け、悪霊に向かって再び手をかざした。「消えろ!」と強く念じたが、悪霊は怯むことなく、あかりに襲いかかった。
「あかりさん!」瞬が叫んだ。
あかりはその瞬間、自分の全ての力を開放することを決意した。あかりはこれまで、力を隠し続けてきたが、全力を出さなければ2人とも終わってしまうと感じたからだ。
「目を閉じて!」あかりは叫んだ。瞬はその言葉に従い、目を閉じた。
あかりは両手を広げ、全身から放たれる光を悪霊に向けた。悪霊はその光に包まれ、苦しそうな声を上げた。光は次第に強まり、やがて悪霊を飲み込み、消滅させた。
静寂が戻り、瞬はそっと目を開けた。目の前には、疲れ果てた様子のあかりが倒れていた。
瞬はあかりに駆け寄り、あかりの身体を強くゆすった。
「あかりさん!あかりさん!」瞬は何度も叫び続けた。
あかりはその声に気付くと、深く息をつき
「なんとかね。でも、これが最後だわ。ごめん」と呟いたまま気を失った。
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