カフェを出た瞬は、街を歩きながら自分の
「国民的アイドル」
としてのオーラを巧みに消していた。
くたびれた帽子を深く被り、大きな黒縁メガネをかけて、無精髭まで生やしている彼を見て、あかりは誰も彼がその有名なアイドルだとは思わないだろうと確信していた。
その時、不意に瞬が言った。
「あの、あかりさんって何歳ですか?…いや、女性に年齢を聞くのは失礼かな…」
言いかけて口をつぐむ瞬の姿に、あかりは思わず吹き出した。
「いいよ、いいよ。気にしないから。25歳だよ。見た目そのまんまでしょ?」
「そうなんだ!じゃあ、僕のほうが年上だね。僕は27歳。」
「へぇ、そうなんだ。」
お互いに少し微笑みながらそう答えたが、会話はそのまま途切れてしまった。
しばらく無言が続いた後、あかりはぽつりと言った。
「あの、先に言っとくけど…私、男性には興味ないんだよね。」
瞬は驚いたように彼女を見つめた。
まるで珍しい何かを見つけたかのような顔だ。
「え、それじゃ…女性が好きなんですか?」
「あ、ちがーう!それも違うの。」
あかりはため息をついた。
そして少し目を伏せながら、続けた。
「…ただ、人に興味がないだけ。」
その言葉を言いかけた時、ふと自分が惨めに見えるんじゃないかという不安が胸をよぎった。
あかりは、セクシュアリティを説明することの難しさと息苦しさを感じていた。