感情が爆発してしまうあなたへ――情動調整障害という考え方とその向き合い方
ちょっとしたことでイライラしてしまう。
人からの何気ない一言で涙が止まらなくなる。
頭では「落ち着こう」と思っていても、感情があふれてしまって止められない――。
そんな自分にあとから深く落ち込んで、「どうして私はこうなんだろう」と自分を責めてしまう。
もしかしたら、あなたもそうした経験を繰り返し、ひとりで悩んできたのかもしれません。
この記事は、そんな「感情をうまくコントロールできない自分」に戸惑っている方に向けて書いています。
医療的な診断名として知られているわけではありませんが、心理学やカウンセリングの分野では「情動調整障害(Emotion Regulation Disorder)」という考え方があります。
それは「病気」というよりも、感情の波が大きくなりやすく、処理が難しい傾向のこと。
そして、その背景には、あなたの持つ繊細さや真面目さ、人に気を遣う優しさが隠れていることも少なくありません。
この記事では、情動調整障害とは何か、なぜ感情が暴走してしまうのか、そしてその波とどう付き合っていけばよいのかを、やさしく解説していきます。
まずは少し、深呼吸して。
自分の心と、そっと向き合う時間を一緒に過ごしてみませんか。
情動調整障害とは?
「情動調整障害(Emotion Regulation Disorder)」という言葉を、はじめて聞いた方も多いかもしれません。
これは、正式な医学的診断名ではなく、感情のコントロールが難しい状態や傾向を指して、近年心理学やカウンセリングの現場などで使われることがある考え方です。
簡単に言えば、感情のスイッチが強く入ってしまったり、感情の波がとても大きくなりやすかったりする状態のこと。
「ちょっとした出来事で爆発的に怒ってしまう」「小さなことでも涙が止まらない」
「不安やモヤモヤが自分でも抑えきれない」といった悩みが、日常的に続いている方に当てはまる傾向があります。
HSP(繊細な気質を持つ人)と似たところもありますが、情動調整障害では「感情が外にあふれ出してしまうこと」に特に強い特徴があります。
つまり、感じやすさ+コントロールの難しさがセットで起こっている状態です。
これは決して「性格が悪い」わけでも「甘えている」わけでもありません。
脳の感情を司る部分の働きや、過去の経験、育った環境、ストレスの蓄積など、さまざまな要因が重なって起きるものだと考えられています。
そして何より知っておいてほしいのは、「自分の感情が手に負えなくなること」に悩んでいるあなたは、決して一人ではないということです。
多くの人が、表には出さなくても、心の中では「うまくできない自分」に葛藤しながら日々を過ごしています。
その気持ちに気づき、向き合おうとしているあなたは、すでに一歩前に進んでいるのです。
どんなときに起こりやすい?感情があふれる瞬間

感情が爆発するようにあふれてしまう瞬間――それは、本人にとっても予想がつかない形で訪れることがあります。
「なんであんなに怒ってしまったんだろう」「なぜ泣き止めなかったのか」
あとから振り返っても、自分でも理解できないことも多いでしょう。
でも実は、感情の爆発にはいくつかの「共通したきっかけ」や「パターン」があることもわかっています。
それらに気づくことができれば、感情があふれる前に自分を守るヒントが見えてくるかもしれません。
1. 否定されたと感じたとき
自分の気持ちをわかってもらえなかったり、努力を認めてもらえなかったりする時、
「自分なんて価値がないのでは」と感じてしまい、悲しみや怒りが一気に湧き上がることがあります。
2. 頑張りすぎて限界を超えたとき
「これくらいやらなきゃ」「迷惑をかけたくない」と自分を抑えて頑張ってきた結果、
気づいたときにはエネルギーが空っぽに。
その反動で、涙や怒りが止まらなくなるケースもあります。
3. 過去の経験が重なったとき
目の前の出来事が、過去に傷ついた経験と結びついて、
「また同じことが起きるのでは」という不安や恐怖がよみがえることがあります。
感情が“過去の記憶”と一緒に反応してしまうのです。
4. 相手の態度や表情からネガティブに感じ取ったとき
少し冷たい言い方、無表情、無視されたように感じる――
そうした小さな出来事が、HSP気質や情動調整の難しさを抱える人にとっては、大きな不安や恐怖の引き金になることがあります。
5. 自分でも気づかない「我慢」が積み重なったとき
自分では大丈夫だと思っていても、小さなストレスやモヤモヤが日々積み重なっていくと、
ふとした瞬間に「もう無理」という気持ちがあふれ出してしまうことがあります。
こうしたきっかけは、ほんの些細なことから始まる場合がほとんどです。
でも、それはあなたが弱いからではなく、とても繊細でまじめに生きているからこそ起きることなのです。
自分の「スイッチが入りやすい瞬間」や「苦手な状況」に気づいておくことは、
感情の波と上手に付き合っていくための第一歩です。
自分でできる対処法:感情が爆発する前のサインに気づく
感情があふれ出す前に、その前兆に気づけたら――。
それはとても難しいようでいて、実は少しずつ練習していくことで、自分の心の波を観察できる力が育っていきます。
感情の爆発は、突然起こるように思えるかもしれませんが、実際には多くの場合、その前に心や体にサインが出ているのです。
まずは、そのサインに気づいてあげることから始めてみましょう。
1. 体の変化に注目してみる
- 呼吸が浅くなる、速くなる
- 胸がざわざわする、喉が詰まるように感じる
- 肩や背中に力が入っている
- 手足が冷たくなる、落ち着かない感覚
こうした身体感覚は、心がストレスや不安を感じているサインです。
2. 思考の変化に気づいてみる
- 「もうダメかもしれない」と極端な考えが浮かぶ
- 人の目が気になって仕方がない
- 「また同じことを繰り返す」と過去の記憶がよみがえる
強い感情が出る前には、思考がモノクロになりやすい(=全てが「良い・悪い」で極端に分かれる)傾向があります。
3. 行動パターンの変化にも注目
- 急に黙り込んでしまう
- イライラして小さなことで当たってしまう
- 過食やスマホの見すぎなど、気をそらす行動が増える
普段と違う行動が増えたときは、心が自分を守ろうとしているサインかもしれません。
4. 気づけたら、無理に直そうとせず「名前をつける」
「今、なんだか落ち着かないな」
「私はちょっと不安になっているんだな」
「なんかすごく疲れてる気がする」
そんなふうに、自分の状態に言葉を与えてあげることが大切です。
それだけで、不思議と感情は少し和らいでくれます。
5. 書き出す習慣をつけてみる
ノートに感情や出来事を「そのまま書き出す」ことも、とても有効です。
文字にすることで、頭の中の混乱が整理され、感情と少し距離を取ることができます。
こうしたセルフチェックを習慣にしていくと、感情の波にのまれる前にブレーキをかける感覚が、少しずつ身についていきます。
最初はうまくできなくても大丈夫。
「気づこうとしている自分」をやさしく認めてあげることが、何より大切な第一歩です。
落ち着くためのセルフケア:感情を外に出す“安全な方法”
強い感情に飲み込まれそうなとき、無理に抑え込もうとするのは逆効果になることがあります。
感情は、「気づいて」「わかってほしい」と心からのメッセージを送ってくれているのです。
だからこそ大切なのは、感情を“我慢”ではなく、“やさしく発散する”方法を持っておくこと。
ここでは、誰にも迷惑をかけず、自分を傷つけることなく安全に気持ちを外に出すセルフケアの方法をご紹介します。
1. 書き出す
ノートやスマホのメモに、そのまま感情を書き出してみましょう。
「ムカついた」「泣きたい」「寂しい」など、正直な言葉で大丈夫です。
書くことで感情が整理され、頭の中が静かになっていきます。
2. 声に出す(小さな声ででもOK)
誰もいない場所で、またはお風呂や車の中などで、
「今、つらい」「なんで私ばっかり」など、声に出して気持ちを吐き出すのも効果的です。
声にすることで、感情は閉じ込められずに自然と流れていきます。
3. 身体を動かす
ウォーキングやストレッチ、軽い掃除やダンスなども、モヤモヤや怒りを身体から解放する手段になります。
特に怒りがこもっているときは、体を動かすことで大きく落ち着くことがあります。
4. 深呼吸・温かいものを飲む
感情が激しいときは、呼吸が浅くなっていることが多いです。
ゆっくり息を吐くことを意識しながら、深呼吸を繰り返しましょう。
温かい飲み物をゆっくり飲むのも、心をやさしく鎮める効果があります。
5. 信頼できる人に話す
「話しても迷惑かな」と感じるかもしれませんが、話すことはとても大切な心の解放です。
共感してくれる人、批判せずに聞いてくれる人がいれば、ぜひその人に「少し聞いてほしい」と伝えてみてください。
6. クッションに思いきり当たる、紙を破く
怒りやイライラの感情を物理的に「出す」方法もあります。
人にぶつけるのではなく、“安全な対象”に発散することで、心に余白が生まれます。
どの方法も、「感情に振り回されないため」ではなく、「感情を尊重し、やさしく付き合うため」のケアです。
感情を溜め込まず、こまめにリリースする習慣をつけることで、少しずつ心の安定感が育っていきます。
周囲との関係を壊さないために:伝え方と境界線の工夫
感情があふれてしまうとき、多くの人が後悔するのは「大切な人を傷つけてしまった」「距離ができてしまった」という人間関係のトラブルかもしれません。
だからこそ、感情を大切にしながらも、相手との関係を壊さないための“伝え方”や“距離の取り方”を知っておくことがとても大切です。
1. 感情は「あなたメッセージ」で伝える
たとえば、「あなたが冷たいからイライラする」と言われたら、相手は防御的になってしまいます。
それよりも、「私はこう感じている」という形で伝えると、相手にも伝わりやすくなります。
- ×「なんで無視するの?」
- ○「私、返事がないと不安になっちゃうんだ」
「責める」ではなく、「気持ちを共有する」意識が大切です。
2. 一度距離を取ることは悪いことじゃない
感情が大きく動いているときに無理に話し合おうとすると、かえって衝突が大きくなってしまうこともあります。
そんなときは、「いったん離れて落ち着く」という選択肢も、自分と相手を守るために有効です。
「少しだけ一人になる時間が欲しい」「冷静になってから話したい」
そう伝えられるようになると、関係に無理がかからなくなります。
3. 「境界線」を持つことは自己中ではなく、自己理解
HSPや情動調整が難しい方は、相手に気を使いすぎたり、逆に感情をぶつけてしまったり、極端になりやすい傾向があります。
だからこそ大切なのは、「どこまでが自分の問題で、どこからが相手の問題か」を自分の中で線引きしておくことです。
- 「相手が怒っている=自分のせい」と決めつけない
- 「相手が疲れている」ことに引っ張られすぎない
- 「自分の感情は自分の責任」で丁寧に向き合う
4. 感情が落ち着いたときに、素直に謝る
もし相手を傷つけてしまったと感じたときは、感情が落ち着いたあとに素直に謝ることも大切です。
「あの時、感情的になってごめんなさい」「ちゃんと伝えたかったんだ」と、自分の中の本音を伝えると、相手も理解を示してくれることがあります。
人間関係において、感情のぶつかり合いを避けることは難しいものです。
でも、「伝え方」と「境界線の意識」を持つことで、トラブルを減らし、お互いの信頼を深めていくことができます。
自分を守りつつ、相手と丁寧に向き合う――
それは、あなたのやさしさと誠実さを活かす生き方のひとつです。
感情的な自分はダメじゃない。自己否定しないことの大切さ
感情が高ぶったあと、「またやってしまった」「どうして私はこんなに面倒なんだろう」と自分を責めてしまうことはありませんか?
でも、その自己否定の積み重ねこそが、さらにあなたを苦しくさせてしまう要因でもあります。
感情的になってしまうことは、誰にでもあります。
ましてや、あなたのように繊細で、真剣に物事に向き合っている人ほど、感情が大きく動くのは自然なことです。
「感情をコントロールできない自分はダメ」
「こんな自分を好きになれるはずがない」
――そんなふうに思ってしまう時こそ、少し立ち止まって、自分をやさしく見つめ直してみてください。
あなたは「感情がある人間」だからこそ、悩んでいる
感情に揺れるというのは、心がちゃんと動いている証です。
そしてその心の動きには、過去の経験・努力・思いやり、たくさんの物語が詰まっています。
否定ではなく、理解に変える
「なぜ私はこう反応したんだろう?」
「何があんなに辛かったのかな?」
と問いかけてみると、感情の裏にある“本当の思い”が見えてくることがあります。
それがわかると、怒りや悲しみは少しずつ、癒しへと変わっていきます。
あなたは「ダメな人」ではなく、「大切なことを感じている人」
感情に悩むということは、それだけ深く生きているということです。
それは「足りないから」ではなく、あなたに“豊かさ”があるからこそ起きることなのです。
だから、どうか「こんな自分はダメだ」と決めつけないでください。
「そんな時もあるよね」「よくここまで頑張ってるよね」と、自分に声をかけてあげてください。
自分を受け入れ、認めることができたとき、感情は敵ではなく、人生を豊かにするパートナーになってくれます。
完璧じゃなくていい。
不器用でも、感情的でもいい。
あなたは、そのままで、十分に価値のある存在です。
必要なときは、専門家に頼っていい
どんなにセルフケアをしていても、どんなに自分を受け止めようとしていても、
どうしようもなく心が苦しくなることがあります。
そんな時は、無理に一人で抱え込まないでください。
「こんなことで相談していいのかな?」「もっとつらい人がいるのに」と思う必要はありません。
あなたのつらさは、あなたにとって十分に大きく、助けを求める理由になります。
そして、誰かに頼ることは弱さではなく、生き抜くための大切な力です。
頼れる場所の一例
- カウンセリングルーム・心理相談所(学校、自治体、民間など)
- 心療内科・メンタルクリニック(薬を使わない相談もできます)
- 職場や学校の相談窓口(ハラスメントや人間関係の悩みも対応)
- SNSやチャット相談(顔を出さず、気軽に相談できる場もあります)
大切なのは、苦しみを誰かに「言葉にして届けること」。
それが、心の負担を軽くし、「もう少しだけ頑張ってみよう」と思えるきっかけになることがあります。
また、専門家に相談することは、あなたの感情の取り扱い説明書を一緒に作るようなものです。
あなたの心の癖や対処法を見つけていくための、心強いパートナーになってくれます。
「自分の力で何とかしなきゃ」と思う優しさも素晴らしいけれど、
誰かと一緒に考えていく道を選ぶことも、同じくらい大切です。
あなたには、頼っていい権利があります。
必要なときには、安心してその手を伸ばしてください。
感情とうまく生きていくために――あなたは一人じゃない
感情が思うように扱えず、心が大きく揺れてしまう――
そんな日々の中で、自分自身にがっかりしたり、周りから取り残されたような気持ちになってしまうことがあるかもしれません。
でも、どうか忘れないでください。
あなたは一人ではありません。
人は誰でも、見えないところで感情に悩み、戸惑いながら生きています。
感情が強く動くということは、あなたがこの世界と深く関わろうとしている証です。
その繊細さは、ときに苦しみを生むけれど、それと同じくらい他者への思いやりや感性という大きな力にもなります。
うまくいかない日もあっていい。
涙が出る日も、怒りに振り回される日もあっていい。
それでもあなたは、大切な存在です。
感情は敵ではありません。
あなたと一緒に生きていく、もうひとりの「あなた自身」のような存在です。
これからは、その感情と喧嘩せずに、少しずつ手をつないで歩いていけるようになるといいですね。
そして、つらくなったときには、この記事のことを思い出してください。
あなたの心に寄り添おうとした誰かが、ここにいるということを。
今日という一日が、あなたの心にやさしさを残してくれますように。
そしてこれからも、あなたがあなたらしく、穏やかに生きていけますように。