
iPhone や iPad をお使いの方なら、標準ブラウザ「Safari」を利用する機会が多いと思います。実は、長年 Apple は 「iOS 上のすべてのブラウザは Safari と同じエンジン(WebKit)を使わなければならない」 という制限を課してきました。
そのため、表向きは「Chrome for iOS」や「Firefox for iOS」が存在しても、中身はSafariと同じWebKitエンジン。つまり外見や機能は違っても、描画や速度の基本性能はSafariとほぼ同じだったのです。
ところが日本では、2025年12月までに施行される新しい法律(スマートフォン競争促進法、通称MSCA)によって、この “WebKit縛り” が解除される見込み となりました。
本記事では、この動きがユーザーや開発者にどんな影響を与えるのか、そして裏側の事情や課題について、できるだけわかりやすく解説します。
そもそも「ブラウザエンジン」とは?
インターネットのページは「HTML」「CSS」「JavaScript」といったコードでできています。
これを読み取り、画面にきれいに表示したり、動きを処理するのが「ブラウザエンジン」です。
- Safari → WebKit
- Chrome / Edge → Blink
- Firefox → Gecko
エンジンごとに性能や特徴があり、開発者にとってもユーザーにとっても体験の差が生まれます。
なぜAppleはWebKitを独占してきたのか?
Appleは「iOS上ではWebKit以外禁止」としてきました。その理由は主に以下の3点です。
- セキュリティとプライバシーの確保
Appleは「エンジンを統一すれば脆弱性対応を一元管理でき、ユーザーの安全を守れる」と説明してきました。 - バッテリー効率・パフォーマンスの最適化
SafariはiPhoneのハードウェアに最適化されており、他のエンジンを許すとバッテリー消費や発熱のリスクが増えると主張していました。 - エコシステムの統制
技術的理由以上に、「自社プラットフォームの支配力を維持したい」という経済的な狙いもあったと指摘されています。
こうした制限は長年批判の的でしたが、日本の新法はこれに風穴を開けることになります。
日本の新法「スマートフォン競争促進法」とは?
2024年に成立したこの法律は、スマホ市場における大手プラットフォーマーの独占を防ぎ、ユーザーの選択肢を広げることを目的としています。
特にAppleとGoogleを対象に、以下のような制限を義務付けます:
- ブラウザエンジンの制限を課してはならない
- 代替ストアや決済システムを不当に制限してはならない
- 初期設定で選択肢を提示する必要がある(ブラウザや検索エンジンなど)
そのため、Appleは2025年12月までに iOS での「非WebKitエンジン」利用を解禁する必要が出てきたのです。
期待できる変化(ユーザー視点)
1. 本物のChromeやFirefoxが使える可能性
これまでiOSのChromeは「見た目Chrome、中身Safari」でした。
今後はGoogleが独自のBlinkエンジンをiOSに移植すれば、デスクトップ版やAndroid版と同じ動作・拡張機能が利用できるようになるかもしれません。
2. パフォーマンスや互換性の改善
特定のウェブアプリや最新仕様が「Safariでは動かないけどChromeでは動く」という状況が減り、Webアプリ利用が快適になる期待があります。
3. デフォルトブラウザ選択の自由
Safariを使いたくないユーザーが、初期設定からChromeやFirefoxを選べるようになる可能性があります。
でも注意点もある(課題)
1. 実装の難しさ
BlinkやGeckoをiOS向けに動かすには多大な労力が必要です。APIの制約や省電力設計への対応など、ハードルは高いです。
2. Appleの「抜け道」
法律で禁止されても、Appleが審査基準やOSの仕様で「結果的に不利」にする可能性があります。例えば「パフォーマンス基準を満たさない」といった理由で却下するなどです。
3. ユーザー普及まで時間がかかる
大半のユーザーはSafariで満足しており、「わざわざ別ブラウザを入れる層」は少数派。普及には時間がかかるでしょう。
日本ユーザーにとっての現実的な影響
ここで気になるのは、「本当に私たちの生活は大きく変わるのか?」という点です。
実際には、すぐに劇的な変化が訪れるわけではありません。
理由のひとつは、iPhoneユーザーの多くがSafariに慣れていること。ブックマークやiCloud連携、Handoffなどの機能を日常的に使っている人にとって、他ブラウザへの完全移行は簡単ではありません。
もうひとつは、アプリ側の対応です。銀行や行政手続きなどの一部サイトは「Safari推奨」として作られており、非WebKitブラウザが解禁されてもすぐに互換性が保証されるわけではありません。
逆に、開発者側は複数のエンジンを考慮して動作確認を行う必要が出てくるため、Web制作の現場ではテスト工数が増える可能性があります。
ただし、長期的にはWebアプリの可能性が広がるというメリットも大きいです。
たとえば「ゲームやクラウドアプリがネイティブアプリに近い速度で動く」「ブラウザ拡張機能をフル活用できる」など、Safariだけでは難しかった体験がiPhoneでも実現できる未来が見えてきます。
海外との比較
- EU(デジタル市場法:DMA)
EUでも似た規制が導入され、AppleはWebKit以外のブラウザを許可する方針を発表しています。
ただし現実にはまだ本格的なBlink/Gecko搭載ブラウザは出ていません。 - 日本の特徴
日本法は「形式上の解禁」だけでなく「実質的な妨害をしてはならない」と規定。EUより一歩踏み込んでいる点が特徴です。
裏話:なぜ日本が先行するのか?
- 日本市場は iPhoneシェアが6割を超える“Apple王国”。独占禁止の観点から特に強い監視対象になったと考えられます。
- 政府も「デジタル市場の競争活性化」を強調しており、消費者庁・公取委・総務省が連携して施策を進めています。
- 海外に先駆けて実効性のある規制を打ち出すことで、国際的なルール形成に影響力を持ちたい狙いもあると見られます。
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ブラウザ選択の自由とともに「安全性」もプラス
iPhoneでChromeやFirefoxを使えるようになっても、セキュリティとプライバシー対策は欠かせません。
公衆Wi-Fiでの盗み見や不正アクセスを防ぐには、VPNや総合セキュリティソフトの導入がおすすめです。
※VPNやセキュリティソフトを併用することで、ブラウザ選択の自由をより安全に楽しめます。
まとめ:私たちにとっての意味
- 2025年12月以降、iPhoneでSafari以外の“本物のChrome/Firefox”が動く可能性が高い
- ただし実際に快適に使えるようになるまでには技術的・制度的な課題が残る
- 開発者にとってはWebアプリの対応幅が広がり、ユーザーにとっては選択肢が増える
- 普及には時間がかかるが、Appleの独占構造に風穴を開ける大きな一歩
ユーザーとしては「すぐに革命的に変わる」わけではありませんが、長年の不満がようやく解消に向かう兆しであることは確かです。
これからのアップデートで「iPhoneのブラウザ体験」がどこまで進化するのか、注目していきたいですね。
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