新緑が目に眩しい季節を迎える一方で、心にはどんよりとした雲がかかるように感じることはありませんか? 新しい環境に身を置いた興奮や緊張が和らぎ、ふと気が抜けたように、意欲が湧かない、気分が沈むといった不調が現れることがあります。それは、決して珍しいことではありません。
「5月病」と呼ばれるその状態は、多くの方が経験する可能性を秘めています。そこで今日は、
「なぜ5月になると私たちの心は疲れてしまうのか」
という問いに深く切り込み、心理士の私がその背景にあるメカニズムを丁寧に解説します。
また、誰にでも起こりうるこの心のSOSサインに対し、どのように寄り添い、穏やかな日常を取り戻せるのか。具体的な対策法はもちろん、周囲の方々ができる温かいサポートについても、心を込めてお伝えします。
「5月病」とは?その誤解と本質
「5月病」という言葉は、春の終わりから初夏にかけて、特にゴールデンウィーク明けに現れやすい、一時的な心身の不調を指す通称です。
医学的な診断名ではありませんが、その状態は決して軽視できるものではありません。
一般的には、新生活や環境の変化による精神的なストレスや疲労が蓄積し、連休による生活リズムの乱れなどが引き金となって表面化すると考えられています。
よく「新入社員や大学生特有のもの」と思われがちですが、実際には、環境の変化を経験したすべての人に起こりうる可能性があります。近年では、生活様式の変化や社会的なストレスの高まりから、主婦の方や、定年を迎えたシニア世代の方にも見られるようになっています。
大切なのは、「気のせい」や「甘え」と捉えずに、心と体が発しているサインとして真摯に向き合うことです。
なぜ5月に心が疲れてしまう科学的な理由
単なる気持ちの問題として片付けられがちな5月病ですが、その背景にはいくつかの科学的な要因が複雑に絡み合っています。
環境の変化とストレスホルモン
4月に新しい環境に飛び込んだ私たちは、期待と不安が入り混じる中で、多くのエネルギーを消費します。新しい人間関係を築き、新しいルールを覚え、慣れない業務をこなすといった一連の適応プロセスは、心身に大きなストレスを与えます。
このストレスに対抗するために、私たちの体はストレスホルモンを分泌します。短期間であれば、これらのホルモンは適応を助ける役割を果たしますが、慢性的なストレス状態が続くと、ホルモンバランスが崩れ、心身の機能低下を引き起こす可能性があります。
自律神経の乱れ
新しい生活での緊張状態が続くと、私たちの自律神経のバランスも乱れやすくなります。特に、活動モードである交感神経が優位になりすぎると、心身がリラックスできず、疲労が蓄積していきます。
さらに、日照時間の変化も無視できません。春から夏にかけて徐々に日照時間は長くなりますが、梅雨の時期などには曇天の日が続くこともあります。セロトニンは、別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、気分の安定に深く関わっていますが、その分泌は日光浴によって促進されます。日照不足はセロトニンの分泌を低下させ、気分の落ち込みや心身の不調に関わると考えられています。
季節の変わり目の影響:気温と気圧
春から初夏へと移り変わるこの時期は、気温や気圧の変化が激しいことも特徴です。私たちの体は、これらの変化に常に適応しようとエネルギーを消費します。特に、気圧の急激な変化は、自律神経の乱れを引き起こしやすく、頭痛や倦怠感といった身体的な症状だけでなく、精神的な不安定さにもつながることがあります。
見逃さないで。5月病のサインと具体的な症状
5月病の症状は人によって様々ですが、以下のようなサインが見られた場合は、注意が必要です。
精神的な症状
①朝、布団から出るのがつらい
②何をするにも意欲がわかない
③気分が沈む、憂うつな気持ちが続く
④不安や焦りを感じやすい
⑤集中力や記憶力が低下したように感じる
⑥イライラしやすくなった
⑦今まで楽しめていたことに興味がなくなった
⑧人に会いたくない、引きこもりがちになる
身体的な症状
①食欲がない、または過食になる
②眠れない、または寝すぎる
③頭痛やめまいがする
④胃痛や腹痛、便秘や下痢などの消化器系の不調
⑤倦怠感が続く、疲れやすい
⑥動悸や息切れがする
これらの症状が長く続く場合は、自己判断せずに、医療機関への相談も検討しましょう。
心の負担を抱えやすいのはどんな人?特徴と傾向

もちろん個人差はありますが、一般的に以下のような特徴を持つ方は、5月病になりやすい傾向があると言われています。
▪️真面目で責任感が強い
何事にも一生懸命取り組み、責任を果たそうとするあまり、無理をしてしまいがちです。
▪️「ちゃんとしなきゃ」が口ぐせの人
完璧主義な傾向があり、自分に厳しく、できないことに対して強いストレスを感じやすいです。
▪️人に頼るのが苦手
困った時に人に相談することができず、一人で抱え込んでしまいやすいです。
▪️環境の変化に弱い
新しい環境への適応に時間がかかり、精神的な負担を感じやすいです。
▪️完璧主義
物事を完璧にこなそうとするあまり、小さな失敗にも落ち込みやすく、ストレスを溜め込みやすいです。
これらの性質は、決して悪いものではありません。むしろ、素晴らしい長所でもあります。しかし、ご自身の特性を理解し、意識的に心のケアを行うことが大切です。
頑張りすぎない。疲れた心を優しく癒すための対策
大切なのは、「頑張ること」を手放し、「いたわること」を始めることです。
休息は「逃げ」じゃない。積極的な休息のすすめ
「休むと周りに迷惑をかける」
「こんなことで休んでいてはいけない」
といった罪悪感を抱く必要は全くありません。心と体は、休息することで回復します。疲れていると感じたら、意識的に休息時間を設けましょう。
また、以下のような休息も大切です。
▪️質の高い睡眠
寝る前のスマートフォンやパソコンの使用を避け、リラックスできる環境を整えましょう。
▪️昼休憩はしっかりと
短時間でも良いので、仕事や勉強から離れて、リラックスできる時間を取りましょう。
▪️週末は心身を休ませる
予定を詰め込みすぎず、自分のペースで過ごせる時間を作りましょう。
心と体を シンクロナイズしよう!生活リズムの整え方
不規則な生活は、自律神経の乱れにつながります。
◆毎日同じ時間に起きる・寝る
休日もできるだけ平日と同じ時間に起きるように心がけましょう。
◆朝の光を浴びる
目覚めたらカーテンを開け、太陽の光を浴びることで、体内時計がリセットされ、セロトニンの分泌も促されます。
◆バランスの取れた食事

栄養バランスの偏った食事は、心身の不調につながります。規則正しく、栄養のある食事を摂りましょう。
▪️適度な運動
軽いウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で体を動かすことは、気分転換になり、自律神経の調整にも役立ちます。
日常の小さな喜びを見つけるアンテナを磨く
大きな目標や成果ばかりを追いかけるのではなく、日常の中に散りばめられた小さな幸せにも目を向けてみましょう。
・好きな音楽を聴く
・美味しいコーヒーやお茶をゆっくりと味わう
・美しい景色を眺める
・アロマを焚いてリラックスする
・ペットと触れ合う
・趣味の時間を持つ
これらの小さな「好き」や「心地よい」と感じる瞬間が、心の栄養になります。
信頼できる誰かに話してみよう
・誰かに話を聞いてもらうだけでも、気持ちが楽になることがあります。
・家族や友人など、信頼できる人に話してみる
・職場の同僚や先輩に相談してみる
・学生相談室や地域の相談窓口を利用する
必要であれば、カウンセラーや精神科医などの専門家に相談することも考えてみましょう。私もたまに、夜中の愚痴聞きのようなボランティアもしています。
身近な人に話したくないことも多いと思います。そういう時「愚痴聞き」というところで吐き出すものいいと思いますよ。
話すことは、問題解決の第一歩になることもありますし、ただ聞いてもらうだけでも心の負担が軽減されます。
*話を聞いてくれるココナラ
自己肯定感を育む魔法。「できたこと」リストの活用
どうしても「できなかったこと」に目が行きがちですが、今日「できたこと」に意識的に目を向けてみましょう。どんな小さなことでも構いません。
・朝、きちんと起きられた
・挨拶ができた
・一つ仕事を終えられた
・美味しいご飯を食べられた
このようなある意味「普通のことじゃん」ということでもいいので「できたこと」を書き出すことで、達成感を感じ、自己肯定感を高めることができます。
マインドフルネスとリラクゼーション
瞑想や深呼吸、ヨガなどは、心と体の緊張を和らげ、リラックス効果を高めるのに役立ちます。
・短い時間でも良いので、静かに座って呼吸に意識を向ける
・好きな香りのアロマを焚きながら、ゆったりと過ごす
・自然の中で散歩をする
このような自分に合ったリラックス方法を見つけ、日常生活に取り入れてみましょう。
そっと支えたい。周囲ができる理解とサポート
もし、あなたの周りに5月病で苦しんでいる人がいたら、温かい理解とサポートをお願いします。
NGワードを知る:「頑張って」の裏にあるプレッシャー
良かれと思ってかけた「頑張って」という言葉が、相手にとってはプレッシャーになることがあります。「もう十分に頑張っているのに…」と感じさせてしまう可能性があるからです。
心に寄り添う言葉の大切さ
「無理しなくていいよ。ゆっくり休んでね」
「あなたの気持ちはちゃんと伝わっているよ」
「いつでも話を聞くからね」
「あなたは一人じゃないよ」
このような、相手の気持ちに寄り添い、安心感を与える言葉をかけてあげましょう。
傾聴と共感:ただ話を聞いてあげることの力
アドバイスや解決策を急ぐのではなく、まずは相手の気持ちに寄り添い、じっくりと話を聞いてあげることが大切です。「つらいね」「大変だったね」と共感することで、相手は安心して気持ちを吐き出すことができます。
必要であれば専門機関への橋渡しを
この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療に代わるものではありません。もし、症状が深刻なようであれば、専門機関への相談をそっと勧めてみるのも、大切なサポートです。
【まとめ】心に優しい雨上がりを。焦らず、ゆっくりと
5月は、新しい生命が芽吹く美しい季節であると同時に、私たちの心が揺れ動きやすい時期でもあります。もし、心や体の不調を感じたら、それはあなたが頑張ってきた証拠です。
焦らず、自分を責めずに、ゆっくりと休息を取り、心と体を労わってください。周りの人も、温かい理解とサポートで、その回復を支えてあげてください。
いつか必ず、心の雨は上がり、清々しい風が吹く日が来ます。それまで、自分自身と、大切な人に、優しさを忘れずに。