
はじめに
Windows 10やWindows 11では、Microsoftアカウントと連動した「PINサインイン(Windows Hello)」が標準になりつつあります。本来であれば、数クリックで簡単に設定・変更・削除できるものですが、ある日突然「PINのリセットができません」「PINの作成に失敗しました」と表示されて、先に進めなくなるケースが増えています。
特に、Windows 11 24H2以降の大型アップデート後や、TPM(セキュリティチップ)周りのトラブルがきっかけで、PINだけがおかしくなるパターンも多く報告されています。
この記事では、PC初心者の方でも順番に試せる基本対処から、技術者向けの深掘り・裏技まで、原因の切り分けから解決までを1本でカバーする「完全ガイド」として整理しました。
主なエラー例
- 「PINを作成できませんでした」
- 「PINのリセット中にエラーが発生しました」
- 「このデバイスではPINを設定できません」
- 「PINサービスに接続できませんでした」
- 「PINが削除できません」
- 「セットアップした暗証番号(PIN)が使えなくなりました」
これらのエラーは、単に「PINがおかしい」というよりも、その奥にある仕組み(Windows Hello・Microsoftアカウント・TPMなど)のどれかが不調になっているサインです。単純な再起動では直らないことも多く、やみくもに操作すると、かえってサインインできなくなるリスクもあります。
ここからは、まずは安全にできる確認から始めて、徐々に専門的な対策へステップアップしていきましょう。
主な原因一覧
| 原因 | 詳細 |
|---|---|
| NGCフォルダ破損 | PIN情報を格納する「NGC」フォルダが壊れている・アクセス権がおかしい |
| Windows Hello サービス不具合 | Windows Hello関連サービスや認証周りが異常終了している |
| Microsoftアカウント同期失敗 | クラウド上のアカウント情報とPC側の情報がずれている |
| ポリシー・グループポリシー制限 | 企業・学校環境で管理者がPIN利用を禁止している |
| TPMの問題 | TPM(セキュリティチップ)に登録された情報との整合性が取れない |
| システムファイル破損 | OSのシステムファイルが壊れていて、PIN設定画面そのものが正常に動かない |
実際の現場では、「NGCフォルダ破損」「Microsoftアカウントの同期不良」「TPMの誤動作」が三大原因です。職場PCや学校PCを利用している場合は、そもそも管理者がポリシーでPINを禁止しているケースもあるため、その場合は自分で直そうとせず、システム管理者に相談してください。
最初に確認すべき基本チェック
■ インターネット接続の確認
PINのリセットや再設定では、Microsoftアカウントと連携して確認が行われることがあります。
・Wi-Fiや有線LANが切れていないか、機内モードになっていないか確認しましょう。
・別のサイト(例:ニュースサイト)を開けるかどうかもチェックすると安心です。
■ セキュリティソフトを一時停止
一部のサードパーティ製セキュリティソフトは、誤検知でPIN関連のプロセスや通信をブロックすることがあります。
・常駐型のセキュリティソフトをお使いの場合は、一時停止(10〜15分程度)してからPINの操作を再試行してみてください。
・作業が終わったら、必ず元に戻すのを忘れないようにしましょう。
■ Windows Updateの適用状況
過去の累積更新プログラムで、「PINが作成できない」「Windows Helloが使えない」といった不具合が修正された例もあります。逆に、アップデート直後に不具合が出ている場合は、後日配信された修正版で直ることもあります。
・「設定」→「Windows Update」から、最新の重要な更新が入っているかチェックしましょう。
・大型アップデート直後に発生した場合は、数日〜数週間後に配信される修正パッチ情報も確認すると安心です。
有効な対策
対策1:NGCフォルダの完全削除(PIN情報のリセット)
PINの設定情報は、Windows内部の「NGC」というフォルダに保存されています。このフォルダが壊れていると、いくらPINを作り直そうとしてもエラーになります。
【NGCフォルダ完全削除の手順】
1.管理者権限のアカウントでサインイン
2.エクスプローラーで以下のフォルダへ移動
3.念のためNGCフォルダを別の場所にコピーしてバックアップ
4.元のNGCフォルダを完全削除
※ フォルダにアクセスできない場合は、フォルダの所有権とアクセス許可を変更します。
① NGCフォルダを右クリック →「プロパティ」→「セキュリティ」タブ
②「詳細設定」をクリック
③「所有者」を自分のユーザー(またはAdministrators)に変更
④ 必要に応じて、自分のユーザーに「フルコントロール」を付与
NGCフォルダを削除したあとPCを再起動すると、初期状態からPINを作り直せるようになるケースが非常に多いです。
対策2:Windows Hello(PIN)設定のやり直し
Windows Hello周りの内部状態が不安定になっているだけなら、設定画面からの「削除 → 再作成」で復旧することもあります。
【手順】
① 「設定」→「アカウント」→「サインイン オプション」
② 「PIN(Windows Hello)」に「削除」ボタンがある場合は一度削除
③ 再起動後、同じ画面から「PINの設定」「PINの追加」で新しいPINを作成
「削除」ボタン自体がグレーアウトしている・エラーで押せない場合は、次の対策に進みます。
上記の操作ができない場合は、コマンドで認証サービスをリフレッシュする裏技を試します。
【コマンドを使う裏技】
1.「スタート」ボタンを右クリック →「Windows ターミナル(管理者)」または「コマンドプロンプト(管理者)」を開く
2.次のコマンドを順番に入力して Enter キーを押します。
これは、「Microsoft サインイン アシスタント(wlidsvc)」サービスを停止→再起動するコマンドです。Microsoftアカウント周りのキャッシュがリフレッシュされ、PIN設定が通るようになる場合があります。
対策3:TPMのリセット(セキュリティチップの初期化)
TPM(セキュリティプロセッサ)に保存されている情報と、Windows側の情報が食い違っていると、PINが突然使えなくなることがあります。TPMをリセットすることで解決するケースも多いです。
【手順】
- 「スタート」→「Windows セキュリティ」を開く
- 左メニューから「デバイス セキュリティ」を選択
- 「セキュリティ プロセッサ」欄の「セキュリティ プロセッサの詳細」をクリック
- 「セキュリティ プロセッサのトラブルシューティング」→「TPMをクリア」を実行
重要:TPMをクリアすると、BitLockerやWindows Helloなど、TPMに依存している機能の情報がリセットされることがあります。BitLockerを使っている場合は、必ず事前に回復キーをバックアップしてから実行してください。
対策4:ローカルアカウントに一度切り替えてから再度Microsoftアカウント紐付け
Microsoftアカウントの内部情報が壊れている場合は、いったんローカルアカウントに戻してから再度紐付けし直すと、認証情報が整理されて解決することがあります。
【手順】
- 「設定」→「アカウント」→「ユーザーの情報」から「ローカルアカウントでのサインインに切り替える」を選択
- ローカルアカウントに切り替えた状態でPCを再起動
- 再度「Microsoftアカウントでのサインインに切り替える」を実行
- サインイン後、「サインイン オプション」からPINの作成をやり直す
この方法は、特に「パスワードや他のサインイン方法は問題ないのに、PINだけがどうしても設定できない」という場合に有効です。
対策5:システムファイルの修復(SFC / DISM)
サインイン オプション画面が開かなかったり、開いてもすぐ閉じてしまう場合などは、Windowsのシステムファイル自体が壊れている可能性があります。
【コマンドプロンプト(管理者)で順番に実行】
DISM /Online /Cleanup-Image /RestoreHealth
1つ目の「SFC」がシステムファイルをチェック・修復し、2つ目の「DISM」がWindowsイメージの破損を修復します。どちらも時間がかかる場合があるので、PCを使わない時間帯に実行するのがおすすめです。
対策6(裏技):サインインオプション画面を直接呼び出す
スタートメニューや設定アプリからうまくサインインオプションが開けない場合は、URIコマンドで直接呼び出すこともできます。
【手順】
- 「Win + R」キーを押して「ファイル名を指定して実行」を開く
- 次の文字列を入力して「OK」をクリック
サインイン オプション画面が直接開くので、そこから「PIN(Windows Hello)」の設定やリセットができるか試してみてください。
対策7:完全初期化の前に「修復インストール(上書きインストール)」を検討
ここまで試しても改善しない場合、OSそのものに深刻な不具合がある可能性があります。いきなりクリーンインストールをする前に、個人ファイルを残したままWindowsを上書きする「修復インストール(In-place Upgrade)」を検討してみましょう。
【補足】
・Microsoft公式サイトから「メディア作成ツール」またはインストールメディアを用意
・Windowsを起動した状態でセットアップを実行し、「個人用ファイルとアプリを引き継ぐ」を選択
・案内に従って進めると、Windowsが最新状態に「上書き」され、システムの不具合だけを修復できます
まとめ
この記事で紹介した対策を一覧にすると、次のようになります。
| 対策 | 難易度 | おすすめ対象 |
|---|---|---|
| NGCフォルダ削除 | 中 | 最も多い原因。手順どおり慎重に進めれば初心者でも対応可 |
| Windows Hello設定やり直し | 低 | まず最初に試したい基本対策 |
| wlidsvcサービス再起動 | 中 | Microsoftアカウント周りが怪しい場合に試す |
| TPMリセット | 高 | TPMエラーが出ている場合や、24H2アップデート後のトラブル時 |
| アカウント切り替え | 中 | 「パスワードはOKだがPINだけダメ」なケースで有効 |
| SFC / DISM修復 | 中 | サインインオプション画面自体がおかしい場合 |
| URIでサインインオプションを直接開く | 低 | 設定アプリがうまく開けないときの小技 |
| 修復インストール | 高 | 重症例・他の方法でどうしても直らないときの最終手段 |
PINのリセット不能は、一見シンプルに見えて実は奥が深いトラブルです。ただし、今回のように原因ごとに順番に試していけば、かなり高い確率で復旧が期待できます。
PC初心者の方は、まず「NGCフォルダ削除 → 再起動 → 新しいPIN作成」から。
それでもだめなら、TPMやシステムファイルの修復、修復インストールと、少しずつ踏み込んだ対処を試してみてください。
今後も、Windowsのアップデートや新しい既知の不具合情報が入り次第、この記事も随時更新していきます。
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