
2025年8月26日、Microsoftは企業・学校向けの新機能「Windows Backup for Organizations」の一般提供(GA)を発表しました。これはユーザー設定やスタート画面のピン留め・Microsoft Storeアプリのリストをバックアップし、新規端末や再イメージ後に自動で復元してユーザー環境の再現を素早くするための仕組みです(完全なファイル/システム丸ごとバックアップではありません)。
Windows Backup for Organizationsとは?
Windows Backup for Organizations は、従来の個人向けバックアップ機能を拡張し、企業や学校などの組織環境で利用できるクラウドベースのバックアップ・復元機能です。
Microsoft Entra ID(旧Azure AD)に参加しているデバイスで利用でき、Intuneなどの管理ツールと連携して運用されます。
これにより、ユーザーがPCを新しくしても、ユーザー設定・スタート画面のアプリ・Microsoft Storeアプリリストが自動的に復元されるため、作業環境を素早く再現できます。
※要件: デバイスは Microsoft Entra 参加(Entra joined / Entra hybrid joined)が必要。バックアップは Windows 10/11 で可能ですが、復元は Windows 11 バージョン 22H2 以降で提供されます。
利用できる場面
この機能は業務復帰時間(Mean Time to Productivity)の短縮を目的に、ユーザー環境を素早く再現します。ファイル本体やデスクトップアプリの再インストールは対象外です。
・Windows 10 から Windows 11 への移行:サポート終了を前に、スムーズな移行が可能。
・PCリフレッシュ:ハードウェア更新やOS再インストール後も、ユーザー環境をすぐに復元。
・障害復旧:システム障害や端末紛失後に、業務再開までの時間を大幅短縮。
従来は手作業で設定やアプリを戻す必要がありましたが、Windows Backup for Organizations により管理者・ユーザー双方の負担が軽減されます。
導入の流れ(概要)
・IT管理者が Intune などでWindows Backup のバックアップ/復元ポリシーを有効化(既定は無効)。必要に応じてバックアップ対象(設定、アプリ リスト等)をCSP/GPOで制御します。
・ユーザーは新しいPCにサインインするだけで、自動的に復元プロセスが開始。
・復元される項目は主に「設定・アプリ配置・Microsoft Storeアプリリスト」。完全なシステムイメージではありません。
ユーザー側で複雑な操作は必要なく、サインインだけで業務環境が戻る点が大きな特徴です。
メリットと注意点
・ 生産性の維持:平均復帰時間(Mean Time to Productivity)が短縮され、業務中断を最小限に。
・管理者の工数削減:端末交換や再セットアップにかかる時間を削減。
⚠️ 個人利用は不可:Microsoftアカウントだけの個人ユーザーは対象外。
⚠️ バックアップ対象は限定的:完全なファイル・アプリケーションのコピーではなく、ユーザー設定やMicrosoft Storeアプリが中心。
Windows 10 サポート終了との関係
Windows 10 は 2025年10月14日でサポートが終了します。そのため、組織はWindows 11への移行を急ぐ必要があります。Windows Backup for Organizations は、この大規模移行を支援するために投入されたといえるでしょう。
「バックアップを取ってから移行する」という従来の流れが、「自動で環境を復元する」という形に進化しています。
バックアップされるもの・されないもの
Windows Backup for Organizations は便利な新機能ですが、「すべてが保存される万能バックアップ」ではありません。あくまでユーザー環境を素早く復元することに特化しているため、バックアップされる項目と対象外の項目を理解しておくことが重要です。
バックアップされるもの | 対象外(別途対策が必要) |
---|---|
ユーザー設定(壁紙・テーマ・言語設定など) | ローカルに保存したファイル(ドキュメント、画像など) |
スタートメニューやタスクバーの配置 | インストールしたデスクトップアプリ(例:Adobe製品、Chromeなど) |
Microsoft Store アプリの一覧 | 周辺機器ドライバ(プリンタ、特殊デバイスなど) |
一部のアクセシビリティ設定 | 大容量のシステムイメージやOS全体 |
つまり、この機能はユーザー設定とMicrosoft Storeアプリ リストの復元に特化しています。ドキュメント等のファイル、周辺機器ドライバ、Store以外のデスクトップアプリは対象外のため、外付けSSDやOneDrive/他社バックアップ製品などと併用する設計が前提です。
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Windows Update による不具合や予期せぬトラブルに備えて、データを守る環境を整えておくと安心です。外付けSSDやUSBメモリがあると、バックアップや復旧がスムーズになります。
従来のバックアップ機能との違い
従来の Windows には「ファイル履歴」や「システムイメージバックアップ」「OneDrive同期」などの手段がありました。しかし、これらは個人ユーザー向けであり、組織全体でPCをリプレイスするときには不便さが残っていました。
Windows Backup for Organizations は、こうした従来機能と異なり、管理者主導で多数の端末を効率的に復元できる点が大きな違いです。
導入シナリオの具体例
実際に Windows Backup for Organizations が役立つシナリオをいくつか見てみましょう。
・企業のPC入れ替え:50台以上の Windows 10 PC を一斉に Windows 11 へ更新する場合でも、ユーザーは新しいPCにサインインするだけで元の環境が戻る。
・教育機関の新年度準備:大学や学校で学生PCを年度替わりでリセットするときも、設定やアプリが自動復元され、IT担当者の負担が軽減。
・障害発生時の迅速復旧:社員PCが故障した場合でも、予備機にサインインするだけでほぼ同じ環境で業務再開できる。
これらのケースでは、従来であれば数時間かかった作業が数十分で完了する可能性があり、業務の継続性に大きく貢献します。
他のバックアップツールとの比較
市販のバックアップソフトは「システム全体を丸ごとコピー」できる強みがありますが、その分ライセンス費用や管理工数がかかります。
一方、Windows Backup for Organizations は追加費用不要でMicrosoft純正、セキュリティ面でも安心です。ただしファイル保護や完全復元を求める場合は、サードパーティ製ソフトや外付けSSDと組み合わせるのが理想です。
完全復旧(OS/アプリ/データの丸ごと戻し)が必要なら、システムイメージ系ツールの併用が不可欠です。Windows Backup for Organizations は迅速な環境復元を担い、災害復旧の最後の砦は別レイヤーで備える、という役割分担になります。
ユーザー視点でのメリット・デメリット
最後に、実際に利用するユーザーや管理者の立場から見たメリットとデメリットを整理します。
メリット(ユーザー視点):新しいPCでもすぐに仕事を始められる。設定を一からやり直す必要がない。
メリット(管理者視点):PCの初期セットアップにかかる時間を大幅削減。多数台導入でも効率的。
デメリット:ファイルや非ストアアプリは対象外。完全復旧には他の手段を併用する必要あり。
このように、Windows Backup for Organizations は「万能バックアップ」ではありませんが、組織にとっての生産性向上ツールとして大きな意味を持ちます。
※ 復元(Restore)は Windows 11 バージョン 22H2 以降で提供されます。Windows 10ではバックアップは可能ですが、復元体験はWin11で最大化されます。
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組織のPC移行やバックアップとあわせて、業務ソフトも最新の環境に整えておくと安心です。Microsoft 365 を導入すれば、Officeアプリやクラウド連携を一元的に利用できます。
まとめ
Windows Backup for Organizations は、企業や教育機関にとって大きな利便性をもたらす新機能です。
・ユーザー設定やアプリ環境を素早く復元
・管理者の負担軽減
・Windows 10 サポート終了に向けた移行の加速
といったメリットがあります。
今後、国内でも導入が進めば、Windows 移行の必須ツールとなる可能性が高いでしょう。
万能なフルバックアップではないものの、Windows Backup for Organizations はMTTP(業務復帰時間)の短縮に直結します。設定/アプリ配置/Storeアプリ リストの復元をこの機能に任せ、ファイルと非Storeアプリは従来のバックアップで守る――この二層構えが、Windows 10 から 11 への移行期に最も現実的で安全なアプローチです。
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