WSL vs 仮想マシン:あなたに最適な開発環境はどっち?

Windows上でLinux環境を利用する手段として、「WSL (Windows Subsystem for Linux)」と「仮想マシン」の二つが注目されています。どちらもWindowsを使いながらLinuxの機能を利用できる便利な技術ですが、その仕組みや得意とする用途は大きく異なります。

そこで今日は、私が実際にWSLと仮想マシンの両方を使ってみて感じた違いを踏まえ、それぞれの特徴を詳しく解説いたします。WSLという言葉を初めて聞く方にもわかりやすいように、基本的なところから丁寧に説明していきますので、ぜひ最後までお付き合いください。

WSL (Windows Subsystem for Linux) とは?

WSLは、Windows上でLinuxを直接実行できるようにする仕組みです。

タスクバー
タスクバー

従来の仮想マシンとは異なり、独立したOS全体を起動するのではなく、Windowsのカーネル上にLinuxの互換レイヤーを構築することで実現しています。これにより、Linuxのコマンドラインツールやアプリケーションを、Windowsのターミナル上で直接実行できるようになります。


そして現在、WSLには「WSL 1」と「WSL 2」の2つのバージョンが存在します。

WSL 1

WindowsとLinuxの間でシステムコールを変換するエミュレーションのような仕組みを採用していました。比較的軽量で起動が速いというメリットがありましたが、ファイルシステムのパフォーマンスや一部のLinux機能の互換性に課題がありました。

WSL 2

より本格的なLinuxカーネルを軽量な仮想マシン技術であるHyper-Vを基盤として動作させる方式を採用しています。これにより、ファイルシステムのパフォーマンスが大幅に向上し、Dockerなどのより高度なLinuxアプリケーションも利用できるようになりました。現在推奨されているのはWSL 2です。

WSLのメリット

WSLのメリットは以下の通りです。

起動が速い

仮想マシンと比較して、Linux環境の起動が非常に高速です。コマンドを実行したいときにすぐに立ち上げられるため、作業の流れを妨げません。

リソースの共有が容易

WindowsとLinuxの間でファイルシステムを比較的容易に共有できます。WindowsのエクスプローラーからLinuxのファイルにアクセスしたり、その逆も可能です。

Windowsとの連携がスムーズ

Windowsのターミナルアプリケーション(例えばWindows Terminal)上でLinuxコマンドを直接実行できるため、WindowsとLinuxの操作をシームレスに行えます。

軽量である

仮想マシンに比べて、システムリソースの消費が少ない傾向があります。複数の環境を同時に立ち上げる場合でも、比較的負荷を抑えられます。

無償で利用可能

Windowsの機能の一部として提供されているため、追加のライセンス費用などはかかりません。

WSLのデメリット

一方で、WSLを利用する上で注意しておきたい点もあります。

完全なLinux環境ではない

ネイティブなLinux環境とは異なり、一部のLinuxカーネルの機能やデバイスへの直接アクセスが制限される場合があるでしょう。

GUIアプリケーションの実行には追加の設定が必要

WSL 1ではGUIアプリケーションの実行は困難でしたが、WSL 2では追加のツールを導入することでGUIアプリケーションも比較的容易に利用できるようになりました。

Hyper-Vの有効化が必要

WSL 2を利用するには、WindowsのHyper-V機能を有効にする必要があります。他の仮想化ソフトウェアとの競合が発生する可能性があります。

次に、仮想マシンについて説明していきます。

仮想マシンとは?

仮想マシンは、物理的なコンピューターの中に仮想的なコンピューターを作り出す技術です。専用のソフトウェア(例えば、VirtualBox、VMware Workstationなど)を使用し、そのソフトウェア上で独立したOS(ゲストOS)を動作させます。これにより、Windows(ホストOS)上でLinuxなどの異なるOSを同時に利用することができます。

仮想マシンのメリット

仮想マシンの主なメリットは以下の通りです。

完全なLinux環境を利用可能

仮想マシン上には独立したOSがインストールされるため、ネイティブなLinux環境とほぼ同等の機能を利用できます。カーネルレベルの操作やデバイスへの直接アクセスも可能です。

環境の分離が明確

ホストOSとゲストOSは完全に分離されているため、一方の環境で問題が発生しても、もう一方に影響を与える可能性は低いと言えます。

様々なOSを試せる

Linuxだけでなく、macOSや他のバージョンのWindowsなど、様々なOSを仮想環境上で試すことができます。

ネットワーク構成の自由度が高い

仮想ネットワークの設定を細かく行うことができ、複雑なネットワーク環境を構築するのに適しています。

仮想マシンのデメリット

仮想マシンを利用する上で考慮すべき点は以下の通りです。

リソース消費が大きい

独立したOS全体を動作させるため、CPU、メモリ、ディスク容量などのシステムリソースを大きく消費します。複数の仮想マシンを同時に起動すると、動作が重くなる可能性があります。

起動に時間がかかる

仮想OSの起動には、物理的なコンピューターを起動するのと同様に時間がかかります。

Windowsとの連携がやや煩雑

ホストOSとゲストOSの間でファイルを共有したり、アプリケーションを連携させたりするには、ネットワーク設定や共有フォルダの設定など、やや煩雑な手順が必要となる場合があります。

ソフトウェアのインストールが必要

仮想マシンを利用するためには、VirtualBoxやVMwareなどの仮想化ソフトウェアを別途インストールする必要があります。有償のソフトウェアも存在します。

結局どっちがいい?あなたのための選択

WSLと仮想マシン、どちらがあなたにとって最適かは、利用目的や重視する点によって異なります。以下に、それぞれの利用が推奨されるケースをまとめました。

WSLがおすすめなケース

主にLinuxのコマンドラインツールを利用したい

Web開発やサーバー管理など、Linuxのコマンドライン操作が中心の方には、軽快に使えるWSLがぴったりでしょう。

Windowsとの連携を重視したい

Windows上で開発環境を構築し、WindowsのツールとLinuxのツールをシームレスに連携させたい場合に便利です。

手軽にLinux環境を試してみたい

面倒なインストール作業なしに、すぐにLinux環境を体験してみたい初心者の方にもおすすめです。

システムリソースを節約したい

複数の環境を同時に利用する場合でも、比較的軽量なWSLの方が負荷を抑えられます。

仮想マシンがおすすめなケース

Linux環境が必要な場合

特定のLinuxディストリビューションの機能をフルに活用したい場合や、カーネルレベルの操作が必要な場合には、仮想マシンが適しています。

異なるOSを試したい場合

Linux以外のOS(例えば、macOSや他のバージョンのWindows)をWindows上で試してみたい場合に有効です。

環境を完全に分離したい場合

ホストOSとゲストOSを完全に分離し、一方の環境の変更がもう一方に影響を与えないようにしたい場合に適しています。

特定のサーバー環境を再現したい場合

実際のサーバー環境に近い構成を仮想マシン上に構築し、動作検証などを行いたい場合に便利です。

まとめ

WSLと仮想マシンは、どちらもWindows上でLinux環境を利用するための強力なツールですが、その特性は大きく異なります。
もしあなたが、手軽にLinuxのコマンドラインツールを利用したい、Windowsとの連携を重視したいのであればWSLが有力な選択肢となるでしょう。一方、完全なLinux環境を必要とする場合や、異なるOSを試したい、環境を完全に分離したいといった場合には、仮想マシンがより適していると言えます。
この記事が、あなたのニーズに合った開発環境を選ぶための一助となれば幸いです。