
はじめに
Excel や Word を開いたときに表示される
「このファイルのソースが信頼できないため、Microsoft によりマクロの実行がブロックされました」
という赤い警告は、故障ではなく Microsoft が既定で有効にしている防御機能 です。インターネット経由で入ってきた Office ファイル(メール添付やダウンロード、クラウド共有など)には “Mark of the Web(MOTW)” という印が付き、VBA マクロを自動で止める 仕様になっています。
これはマルウェア感染を防ぐための業界標準的な対策で、2025年現在も継続しています。
本記事では、ブロックの仕組み(MOTW) を短く押さえつつ、
①本当に安全かを見極める要点
②安全と確認できた場合だけ行う正しい解除方法(プロパティ「許可する」/信頼できる場所/署名を信頼/PowerShell で一括解除 など)
③企業の運用上の最善策
を解説します。
2025年11月の補足
仕様の位置づけ再確認
マクロは “インターネット由来のファイルは既定でブロック” が基本です。社内共有でも、初回取得時は外部由来として扱われることがあります。解除は 「送信元・内容が信頼できる」 と判断できたときに限定してください。
推奨される解除順序の考え方
まずは単体の安全なファイルなら プロパティの「許可する」 が最小限で確実、繰り返し使うなら 「信頼できる場所」 へ移し、配布物や業務テンプレートは コード署名(VBA 署名)を信頼 する設計が堅実です。大量ファイルは PowerShell の Unblock-File で一括解除も可能ですが、対象フォルダの安全性を事前に担保してください。
Mac の場合の一言
ダウンロード品には com.apple.quarantine が付き、初回実行時にブロックされることがあります。基本は 信頼できる保存先に置き直す/署名済みマクロを使う 方針で、無効化や属性削除の常用は推奨されません。
マクロとは何か?
まずは「マクロってそもそも何?」というところから確認しておきましょう。
- マクロとは?
ExcelやWordに搭載されている「作業を自動化するプログラム機能」で、VBA(Visual Basic for Applications)という仕組みを使って動作します。 - 便利な利用例
- 複雑な表計算をボタン一つで処理する
- 書類のフォーマットを自動で整える
- 定型レポートを瞬時に作成する
このように、業務効率を大きく改善できるとても便利な機能です。
一方で、「プログラムを自動で実行できる」という性質から、悪意あるマクロがウイルスを仕込む手段として利用されてしまったという経緯もあります。
なぜマクロがブロックされるのか?
背景にあるセキュリティの脅威
長年、世界中で「マクロ付きOfficeファイルを使ったマルウェア感染」が問題となっていました。
例えば、次のような流れです。
- 攻撃者が「請求書.xlsm」などと題した不審なファイルをメールで送信
- ユーザーが開くと「コンテンツの有効化」というボタンが表示される
- ユーザーがクリックすると、悪意あるマクロが自動実行 → ウイルス感染
こうした被害を防ぐため、Microsoftは2022年から「インターネット経由のファイルに含まれるマクロを既定でブロック」する仕様を導入しました。
どんなときにエラーが出るのか?
このエラーは、主に以下のような場面で表示されます。
- メール添付のExcel(.xlsm)やWord(.docm)ファイルを開いたとき
- インターネットからダウンロードしたファイルを開いたとき
- OneDriveやSharePointから初めて取得したファイルを開いたとき
つまり、「外部から取得した」と判定されたOfficeファイルが対象となります。
安全かどうかを確認するポイント
マクロは便利な機能ですが、悪用されるリスクがあるため、解除は必ず安全が確認できた場合にのみ行うようにしましょう。
確認ポイント
- 送信元は信頼できるか?
- 知っている取引先や社内の同僚からのファイルか?
- 不審なメールアドレスや、怪しい日本語表現のメールなら開かないで削除が安全です。
- ファイル形式を確認する
- マクロ有効形式は
.xlsmや.docmです。 - 「.pdf」に見せかけた偽装ファイルなどもあるため注意が必要です。
- マクロ有効形式は
安全が確認できた場合の解除方法
重要:ここで紹介する方法は、送信元とファイル内容の安全性が確認できた場合にのみ実行してください。外部由来ファイルのマクロは、Windowsの「インターネット マーク(MOTW)」により標準でブロックされます。MOTW(Mark of the Web) はWindowsがインターネット由来で保存されたファイルに付与する属性(ZoneId)で、これが付いているとOfficeはマクロを既定でブロックします。解除の基本は、①MOTWを外す、②信頼できる保護下で開く、③信頼済みの署名で検証する、のいずれかです。
方法①:ファイルのプロパティでブロック解除(最も簡単)
単体のファイルなら、この方法が最も手早く確実です。Windowsが付与した「インターネットから取得」のフラグ(MOTW)を外します。
- 対象ファイル(
.xlsm/.docmなど)を右クリック → [プロパティ]。 - [全般]タブの下部にある [セキュリティ]「このファイルは他のコンピューターから取得したものです」 の[許可する]にチェック。
- [OK]で閉じ、ファイルを開き直します。
補足:一覧で複数ファイルを扱う場合は、後述の「方法④:PowerShellで一括解除」も便利です。
方法②:Excel/Wordの「信頼できる場所」に保存して開く(反復利用向き)
繰り返し使う安全なマクロは、「信頼できる場所」に置くとブロックされずに開けます。専用フォルダを1つ作り、そこにだけ格納しましょう。
- Excelを起動 → [ファイル] > [オプション] > [セキュリティ センター] > [セキュリティ センターの設定]。
- [信頼できる場所] → [新しい場所の追加] → 例:
C:\TrustedMacrosを登録(サブフォルダーも使うなら「この場所のサブフォルダーも信頼する」にチェック)。 - 対象ファイルをそのフォルダに移してから開きます。
注意:ネットワーク共有(NAS/ファイルサーバー)を信頼場所にするのはリスクが高いです。やむを得ず設定する場合は、同画面の「ネットワーク上の信頼できる場所を許可する」を理解したうえで、アクセス制御を厳格に行ってください(企業内では管理者ポリシーで統制推奨)。
方法③:正規のデジタル署名(VBA署名)を信頼する(推奨・組織向け)
VBAプロジェクトにコード署名証明書で署名されていれば、信頼された発行元として扱えます。業務配布や長期運用のマクロは、この方式が最も安全で再現性が高いです。
- 開いたときに「発行元を信頼しますか?」等のダイアログが出たら、発行元(組織名・証明書)を確認のうえ信頼を付与します。
- 開発側は SelfCert.exe(自己署名は小規模・暫定向け)または企業CA/商用証明書で署名し、利用者側はその発行元証明書を信頼ストアに配布します(管理者がGPOやIntuneで一括配布)。
ポイント:MOTWが付いたままでも、信頼済みの発行元による署名マクロは組織ポリシーで許可できます。無差別に有効化するより、署名ベースで運用するのがベストプラクティスです。
方法④:PowerShellで一括解除(複数ファイルをまとめて)
多数のファイルに「プロパティ > 許可する」を行う代わりに、PowerShellの Unblock-File コマンドでMOTWを一括で外せます。安全を確認済みのフォルダに限定して実行してください。
# 例:フォルダ内の Office マクロ付きファイルの MOTW を一括解除Get-ChildItem "C:\TrustedMacros" -Recurse -Include *.xlsm,*.xlam,*.docm | Unblock-File注意:解除は元に戻せません。誤って不審ファイルを含む場所に実行しないよう十分ご注意ください。
方法⑤:OneDrive / SharePoint 経由のファイルでブロックされる場合
クラウドから取得したファイルはMOTWが付きやすく、赤いバーの「Security Risk(セキュリティ リスク):Microsoft によりマクロがブロック」が表示されます。以下を試します。
- 同期クライアントでローカルに保存後、方法①(プロパティの許可)を実施。
- 信頼できる自社ドキュメントで反復利用するなら、方法②(信頼できる場所)に移す。
- 組織内配布の標準テンプレートは、方法③(署名&発行元信頼)で運用設計する。
企業環境:管理者がGPO/Intuneで「信頼済みテンプレートのパス」「信頼できる場所」「コード署名の要件」などを一元設定すると、ユーザー操作を最小化できます。
方法⑥:マクロを含まない形式で保存し直す(マクロが不要なら)
- Excel:
.xlsxとして保存(マクロは削除されます)。 - Word:
.docxとして保存(同上)。
取引先へ配布する資料など、マクロ不要の運用に切り替えると、以後のブロックや誤作動リスクを避けられます。
(参考)Mac版Officeの場合
基本方針は同じで「外部由来はブロック」です。MacではGatekeeperの隔離属性(com.apple.quarantine)が付く場合があり、ブラウザ経由のダウンロードで起こりやすいです。信頼できる保存先に置き直す、署名付きマクロの利用を優先してください。(上級者向けには xattr コマンドでの隔離属性削除もありますが、業務端末では非推奨)
やってはいけないNG設定
- 「すべてのマクロを有効にする」(常時有効化)は絶対に避ける。
- 出所不明のファイルを信頼場所に置く/一括解除コマンドを漫然と実行する。
- 発行元や内容を確認せずに署名を信頼する。
迷ったら解除しないが原則です。企業端末では必ずIT管理者の方針に従いましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. マクロを有効にすると本当に安全ですか?
→ 信頼できる相手から受け取ったファイルであれば大きな問題はありません。ただし、少しでも不安があれば実行しないのが原則です。
Q2. 社内ファイルなのに毎回ブロックされます。
→ OneDriveやSharePointを経由した場合、「インターネット由来」と判定されることがあります。管理者に「信頼できる場所」を設定してもらうと解決できます。
Q3. 解除方法が見当たりません。
→ 企業環境では、管理者がグループポリシーでマクロを強制的にブロックしている可能性があります。その場合は自分で解除できません。
Q4. 常にマクロを有効化する設定はできますか?
→「セキュリティリスクが高いため推奨されません。信頼できる場所を利用してください」など注意喚起。
Q5. Mac版Officeでも同じですか?
→ Mac版はUIが異なるが、基本的に「外部由来のファイルはブロックされる」と補足。
一度「信頼済み」にした文書は保護ビューで開かれなくなるなど例外的に動作します。出所を十分に確認したうえで利用してください。
企業ユーザー向け補足
- IT管理者は「グループポリシー」や「レジストリ」を通じて、組織全体でマクロの有効化/無効化を制御できます。
- セキュリティリスクを抑えるため、企業では「原則ブロック」「必要部門だけ例外許可」という運用が推奨されます。
実務で役立つ補足テクニック:マクロを安全に活用するための知識と小技
マクロは危険だから使わない…と思ってしまいがちですが、正しく設定すれば業務効率を大幅に上げられる強力なツールです。ここでは、知っておくと安心できる「裏技」的な活用知識を紹介します。
1. 「信頼できる場所」をフォルダ単位で登録する
毎回プロパティを解除するのは面倒ですが、「信頼できる場所」機能を使えば解決できます。
ExcelやWordの設定で「このフォルダ内のファイルは常に安全」と登録しておけば、その中のマクロ付きファイルはブロックされません。
例えば「C:\TrustedMacros」など専用フォルダを作り、そこだけ許可しておけば、万一の感染リスクを最小限にできます。
2. マクロを含まない形式で保存し直す
どうしてもマクロが不要な場合は、「マクロなし形式」で保存し直す裏技も有効です。
- Excelなら
.xlsx - Wordなら
.docx
に変換すれば、マクロは完全に削除されます。これで誤作動やセキュリティリスクを心配せずにファイルをやり取りできます。
3. VBAコードを「読むだけ」で安全確認
少し慣れている方なら、マクロを実行する前に VBAエディタで中身をチェックする のもおすすめです。
- Excelで
Alt + F11を押すとVBAエディタが開きます。 - 「見たことのない怪しい関数」や「インターネットに接続しようとするコード」が含まれていないかを確認できます。
これだけで「危ないマクロかどうか」の初歩的な見分けができます。
4. サンドボックス環境で試す
高度な方法ですが、どうしても怪しいファイルを開く必要がある場合は、仮想環境(VirtualBoxやHyper-Vなど)でテストするのも裏技です。
- メインPCとは切り離された環境で開けば、万が一ウイルスが仕込まれていても被害は最小限。
- IT部門ではよく行われる安全確認手法です。
5. 「マクロ専用PC」を用意する
業務でどうしても古いマクロを使い続ける必要がある場合、普段使いのPCとは別にマクロ専用PCを用意するのも安全対策の一つです。
- ネットワークを切断した環境でだけ利用する
- 機密情報のファイルは扱わない
といった運用にすれば、リスクを最小化しつつ必要なマクロを維持できます。
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- セキュリティ警告の意味や回避策を学べる
- Excel/Wordをもっと便利に活用できるテクニック収録
まとめ
この警告はエラーではなく、不審なマクロから PC を守るための既定動作 です。最初にやるべきことは、解除ではなく 「安全確認」。送信元・内容に問題がないと判断できたファイルだけ、プロパティの「許可する」→信頼できる場所→署名の信頼 の順に、用途に合った方法で開きましょう。業務で配布・運用するマクロは、署名ベース+管理者ポリシー で統制するのが長期的に安全です。
一方で、常時マクロを有効にする設定は厳禁 です。便利さより安全性を優先し、迷うときは 解除しない を徹底してください。クラウドやメール経由の文書は “インターネット由来” と見なされやすく、ブロックは正常な挙動です。正しく理解して必要なときだけ安全に使う——それが、2025年のいまも変わらない最善策です。
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