瞬は重たい沈黙を破るように、静かに口を開いた。
「おそらく、あの魔物に…昔会った事があるんです。」
「え?『昔会った』ってどういうこと?」
あかりは首をかしげながら訊いた。
興味と疑念が入り混じった表情が顔に浮かんでいる。
瞬は、一度彼女の目を見てから、視線をテーブルの上に落とした。
「10年前、僕はある場所で不思議な老人に出会ったんです。その老人は、僕に不思議な力を与えたと自称していました。最初は冗談かと思っていましたが、それ以来、僕の人生は変わってしまったんです。」
「その力…具体的にはどういうものなの?」
身を乗り出したあかりの関心が強まるのを感じながら、瞬はさらに話を進めた。
「物や人の『オーラ』と少し先の未来が見えるんです。それ自体は無害なのですが…。」
瞬は目を閉じ、少しの間を置いて続けた。
「でも、僕がそういう力をつかうには代償が伴ったんです。力を使い続けるたびに、周りに奇妙な現象が起こるようになって…その中で最も危険だったのが、あの魔物です。」
あかりは瞬をじっと見つめ、真剣に話を聞いていた。
「つまり、その老人が与えた力が原因で、あの魔物が現れるようになったってこと?」
瞬は小さくうなずいた。
「はい。そしてその魔物は、僕の力に引き寄せられるように頻繁に現れるようになりました。」
「それなら、何故今まで何も言わなかったの?」
あかりの声には、少しの苛立ちが含まれていた。
「もしもっと早く教えてくれたら、私も何か対策ができたかもしれないのに。」
瞬は眉を寄せて少しうつむいた。
「僕一人で何とかできると思っていたんです。他人を巻き込みたくなかったんです。」
その言葉に、あかりはしばし黙り込んだ。