サングラスをしているものの、圧倒的なオーラは隠すことができず、カフェにいた皆が「堂坂瞬だ」と気づいていた。
しかし、
プライベートだから・・と誰も声をかけることはなかった。
あかりも皆と同様驚いたものの、
すぐに冷静を取り戻しコーヒーをひとくち飲んで目をスマホにやった。
「私もプライベートだ」
あかりも、存在を無にしてみた。
あかりがスマホを手に、脚本用のあらすじを考えていると
「あのぉ。」
と声をかけられた。
このカフェで他人から声をかけられた事がなかったあかりは、
驚いて顔を上げると、そこには堂坂瞬が小さくなって立っていた。
「な、なんですか⁉︎」
と、いつもより少し大きな声が出てしまった。そんなあかりを見ながら
「あなたは僕を助けてくれた人ですよね。」
と瞬は問いかけた。
「違います。人違いです。」
と言ってあかりはおもむろに目をそらせ、軽く会釈をして再びスマホに目を落とした。
「僕は…わかるんです。霊感強いんです」
と言いながら、瞬はあかりのテーブルの席に座った。
「確かにあなたは僕を救ってくれたとわかっています。なのに何故嘘を言うのですか?」
と小声で言う瞬に
「嘘?いえ私はただ、あの場で少し手を貸しただけで何もしていませんから。」
と、あかりは語気を強めた。
「でも、あの時僕は・・」
と、言いかけたその時、再び瞬の体が硬直し、目の焦点を失い、
何かに取り憑かれたように小刻みに震え出した。
あかりは瞬時に察知した。
あの異様な気配が再び現れたのだ。
あかりは瞬の肩をしっかりと掴み、強い口調で
「しっかりして。私の目をみて!」
するとその瞬間、瞬の体から暗い影が飛び出したのだ。
それは明らかに悪霊で、黒い煙のような姿をしており、
恐ろしい顔をしてあかりを睨みつけ
『プリソンスマニュエル』
と吐き捨てた。
『何?プリソンス?何の言葉?呪文?』
あかりは一瞬その言葉に気を取られたが、慌ててカフェにいるお客さんを見回した。
皆何も気づいていない。
私たちの居るここだけが異空間になっているようだった。
あかりは一歩も引かず、その悪霊に向かって手をかざし「ここから去れーっ!」と力を込めて叫んだ。
悪霊は一瞬戸惑ったが、あかりの強い力に抗うことができず、
苦しそうに聞こえない何かをつぶやきながら蒸発するように消え去った。
静寂が戻り、瞬はその場に崩れ落ちた。
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